FC2ブログ

ジャムジャム王国(仮)

気まぐれにつらつらと

Entries

モダンマッチガール

ある大晦日の夜のことでした。新年への期待でそわそわとした街の中、一人の少女がティッシュを配っていました。

「全部配り終えるまで帰ってくるな。」

いつも不機嫌で、眉をしかめながらバイトに怒鳴り散らすことで有名なあの店長にそう言われて送りだされていた少女は、夜が更けても帰るに帰れず、寒空の下で一人ティッシュを配り続けていました。しかし街をゆく人々は、通行の邪魔だと言わんばかりの表情で少女の周りを通り過ぎてゆくだけです。

あまりの寒さに我慢できなくなった少女は、まるで他人のものかのようにふるえ続けている手で、配っていたティッシュを一枚取りだし自分の頬にあてました。

それは温もりと呼ぶにはあまりに微かで儚いものでしたが、日々金欠で毎日の食事が、椀の底が透けて見えるようなお粥一杯だけという生活を送っていた少女にとっては高級羽毛布団の柔らかさと温かさのように感じられました。

するとどうでしょう。少女の目の前に立派な重箱が現れたではありませんか。中には話でしか聞いたことのない高級食材が惜しげもなく使われたおせち料理が入っていました。

「まあ、なんて美味しそうなおせちでしょう。ああ、あの赤くてとげとげしたものはイセービというものですね。ならばイチゴジャムをつけて食べるのでしょう。」

いったい誰でしょうか。少女にいい加減な情報を与えたのは。

しかし少女がそれに手を伸ばしたかと思ったら、重箱は霞のように消えてしまいました。少女はもうたまらなくなって、今度は一度に一袋全部のティッシュを出してみました。

すると今度はとても立派な炬燵と、その上に置かれた分厚く膨らんだお年玉袋が現れました。少女はもう目をパチパチさせてくるくると小躍りしました。

しかし今度も少女が触れようとしたとたんに消えてしまったのです。

「きっともっとたくさんのティッシュを使えば、さわっても消えずにいるはずだわ。」

少女はかごに入っていたティッシュ全部を次々に開けてその中身を取り出すと、全身に纏いました。すると体の芯からずんずんと熱が湧いてきたではありませんか。手の爪はエナメルのようにきらきらひかり、髪の毛の先からはシュルシュルと火花が飛び散りはじめ、少女は楽しくてもう踊りだしたくなりました。

そうして少女は、纏っていたティッシュを粉雪のように舞わせながら真っ暗な空に向かって一直線に飛んでいきました。

次の日の朝。新年の凛とした空気を初売りの行列がかき混ぜ始めた頃、人々はティッシュが散乱した路地裏に転がる小さな屍を見つけたのでした。



アンデルセンが現代日本に生まれていたなら、マッチ売りの少女もこんな具合になっていたのでしょうか?こういう、まったくもって何の役にも立たないことに脳細胞を使うことが三度の飯よりも好きなジャムです。こういうことができるのも休日ならではです。

以上、私の休日の過ごし方から一部抜粋でした。
スポンサーサイト

*Comment

 

もうティッシュを断れない……(´;ω;`)
や、ティッシュならどれだけあっても困らないので元から断りませんがw

それにしてもジャムさんの文章ってほんといいですねぇ。
こうして物語を読んでみて、改めてそう感じました^^
  • posted by はぐれ物書き 
  • URL 
  • 2010.06/06 02:11分 
  • [Edit]

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • posted by  
  •  
  • 2010.06/06 07:37分 
  • [Edit]

 

人って本気で欲すると無いものが見えてしまったりしますよね。特に飢餓状態のように生命に関わるときとか。あとあるはずのものが見えなかったり。
そうすると妄想し続ければ空を飛ぶことも出来るんじゃないかとか(勿論脳内で)、少し危ないですね(笑)、そうゆうような役に立たないことを考えるのが自分も好きです。でもたとえ役に立たなくても自分が満足すればいいんですよね。

個人的にはマッチ売りの少女の少女はある意味幸せな最期だったと思います。たとえ少女にしか見えなかったとはいえ温かいご馳走に囲まれて逝けたわけですから。まあ他人から見れば超バットエンドでしょうけど。
結局何もかも自己満足ですね。
  • posted by 蓮根111377 
  • URL 
  • 2010.06/06 21:21分 
  • [Edit]

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • posted by  
  •  
  • 2010.06/06 21:24分 
  • [Edit]

NoTitle 

なんてひどい店長だ。と思って読んでたらいつの間にかマッチ売りの少女にすり変わっていたぜ。
そういえば、マッチ売りの少女って悲しいお話で終わってしまって。童話ならではの、教訓とか、教えといったものが入ってないような気がします。少女にはせめて幸せな夢を見続けてほしいな。
  • posted by しょき 
  • URL 
  • 2010.06/09 10:29分 
  • [Edit]

NoTitle 

もしあの話がああだったらと考えるのは
自分も嫌いではないです
マッチ売りの少女は終わり方がすごく印象的ですが
ティッシュ配りの少女を見て初めてマッチ売りの少女を
読んだときを思い出しました マッチ売りより好きかもですw
  • posted by Delta 
  • URL 
  • 2010.06/09 22:50分 
  • [Edit]

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

Menu

プロフィール

ジャジャム・ジャム

Author:ジャジャム・ジャム
ニコニコ動画でピアノなんぞ弾いております。

あまとう!

最新記事

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR

カテゴリ